映画とライフデザイン

映画ブログを始めて17年、年間180〜200本観ます。時おりグルメ記事や散歩して気に入った場所の記事を書きます。gooの閉鎖で移動してきました。

映画「マルティネス」フランシスコ・レジェス

映画「マルティネス」を映画館で観てきました。

映画『マルティネス』メキシコ映画、リタイア時期に差し掛かる60歳の偏屈男の人間ドラマだ。監督はメキシコ人女性のロレーナ・パディージャで主演はチリ映画の名作ナチュラルウーマンで主人公の恋人役だったフランシスコ・レジェスである。子どもが主役の日本映画を連続して観たので次は同年代が主人公でもいいかな?直近は海外旅行も行けず映画で世界の片隅を観るのが楽しみで今回はメキシコだ。予告編で何気なくいいのではと思いながら、気がつくとそろそろ上映終了で慌てて映画館に向かう。

メキシコで暮らすチリ人のマルティネス(フランシスコ・レジェス)は偏屈で無愛想な60歳の男性。会計事務所での仕事やプールでの水泳といった日々のルーティンを決して崩さない。そのマルティネスの前に後任だと自ら名乗るパブロが来社して引き継ぎまでいてと会社から指示を受け途方に暮れる。

アパートの隣人女性、アマリアが部屋で孤独死していたことが判明する。アマリアの私物にマルティネスへの贈り物が残されていたことを知り驚く。マルティネスは遺された日記や手紙、写真を通してアマリアを徐々に知るようになる。そこでマルティネスは「やりたいことリスト」を見つけ、彼女の残した痕跡に少しずつ引き寄せられていく。

映画としては普通。60になる男のささやかな希望を描く。

メキシコ映画なのにフィンランドアキカウリマスキ監督作品を思わせる素朴な登場人物たちだ。素朴な人物の中でもマルティネスは特別で人間嫌いで孤独なシングル生活を過ごしている。今はもう世にいない女性への実らない愛に迷うユニークでほろ苦い人間ドラマで、隣人の女性が残していったソロ活メモにインスパイアされていくのが興味深い。

⒈ソロ活リストの実行

故人のやることリストを見てマルティネスの中に好奇心や使命感が芽生えていく。自ら実行していくのだ。アマリアが関係していた既婚男性を訪ね何も言わず殴って立ち去る場面、プラネタリウムで星空を黙って見上げる場面、香水と薄いピンク色の寝衣を同僚と共に買い求める場面、料理をつくる場面で孤独な生活の中に新たな感覚を見出していくのがわかる。

遊園地でマルティネスは一人で楽しそうに空中ブランコに乗る。故人がやりたいと言っていたカラオケでは同僚女性の誕生日祝いで3人と歌い、不器用ながら苦手な歌を披露する。朴訥だけど偏屈なマルティネスが少しづつ変わっていく姿には好感が持てる。

⒉マルティネスの失敗

後任の40歳の男パブロとすぐ交代する訳でない。最初は一方的にマルティネスが彼を嫌がっていただけだったが、やがてパブロと一緒に過ごす時間も生まれる。しかし人事に意見を求められると、マルティネスは彼の欠点を並べ立ててしまうのだ。

それでも気のいいパブロと買い物に行ったりカラオケで歌ったりして仲良くなるのだ。ところが結果的にパブロは解雇されてしまう。直後に後悔を覚えるものの、何も言わずに黙っている。代わりに自らは契約延長が決まるのだ。だが職場に残ることはむなしさしかもたらさない。セリフなしで映画は続く。

⒊メキシコの美しい湖畔

ロケ地となったメキシコ・グアダラハラには行ったことがない。古いボロい建物が多いけど歴史も感じさせて雰囲気はある。ラストでマルティネスは旅に出る。向かうのはメキシコ・グアダラハラ近郊に実在するチャパラ湖畔の街である。メキシコ最大の湖で穏やかな景観を持ち、映画では湖面の広がりと背後の山並みが印象的に映し出される。湖のシーンを観ていて北海道・大沼と駒ヶ岳の組み合わせの構図によく似ていてどこか懐かしい感じを覚えた。

湖畔でマルティネスはパブロと再会する。そこに和解や劇的な言葉はない。ただ静かに寄り添うようのだ。