映画とライフデザイン

映画ブログを始めて17年、年間180〜200本観ます。時おりグルメ記事や散歩して気に入った場所の記事を書きます。gooの閉鎖で移動してきました。

映画「ふつうの子ども」呉美保

映画「ふつうの子ども」を映画館で観てきました。

映画『ふつうの子ども』小学校4年生の男子生徒と同級生の2人を中心とした「子どものいたずら」物語である。「そこのみにて光輝く」呉美保監督と脚本の高田亮がコンビを組むことで注目に値する作品だ。しばらく新作のなかった呉美保監督は昨年吉沢亮主演「ぼくが生きてる、ふたつの世界」で見事復活、今回は名コンビで望むオリジナル脚本の作品だ。子どもたち中心のキャストに加えて、蒼井優風間俊介瀧内公美の人気俳優が子どもたちのサポートに入る。

小学4年生の上田唯士(ゆいし:嶋田鉄太)は、父と母(蒼井優)の3人家族でいたってふつうの男の子だ。クラスメイトの三宅心愛(ここあ:瑠璃)に密かに憧れている。心愛は同世代の子どもとは少し違う、環境問題に強い関心を示す「ませた少女」だ。好きになった唯士は心愛が図書館で本を借りていると知れば、マネして図書館に行って子ども向けの環境の本を借りるのだ。

心愛は「大人は地球を汚してばかり」と断じ、町で「環境に良くないものを糾弾するビラ」を貼る小さな運動を始める。唯士やクラスのやんちゃ坊主陽斗(はると:味元煬大)もその行動に巻き込まれる。そこには唯士の「彼女が好きだから」という恋心が横たわっている。環境のために行動すべきだと説かれれば、一緒に悪さをしてしまう。ところが、徐々にエスカレートして町の住民に迷惑をかけるようになる。

「無邪気な少年の恋」を描いた作品でも少女の態度にムカつく場面が多々ある。

10歳くらいの年齢は女の子の方がはるかにませていることが多い。主人公が恋心を抱いた少女心愛は子どもなのに二酸化炭素削減に関心を持つ環境オタクだ。映画を観ていて少女の鼻につく正義感に思わず反発してしまい気分が悪くなる。

でも正気に戻すのはいかにも子供っぽい主人公の少年の無邪気さである。嫌悪や苛立ちが不思議と和らげられる「好きな女の子を追いかける子どもの物語」なのだと思わせる。

呉美保監督と脚本の高田亮『そこのみにて光輝く』『きみはいい子』で、人物の弱さや曖昧さを真正面から描き、観客の心を揺さぶってきた名コンビだ。今回もその手腕は健在である。

⒈環境オタクの少女と無邪気な少年

正義感を振りかざし、周囲を引きずり回す姿は子ども映画にありがちな「かわいいいたずら」には到底見えず、むしろ大人顔負けの押しつけがましさに強い嫌悪感を感じた。例えて言えば、昭和の学生運動の女闘士を思わせる怖さがある。両方とも当人が良かれと思ってやった行動が周囲に多大な迷惑をかけているのが共通点だ。

主人公は環境に良くないと家で牛肉を食べなかったり、3人で牧場の柵から牛を脱出させようとする。幼い女闘士の行動に必死で付き従う。むしろ無邪気さに心が動く。子どもの一途さを認めてしまう。そう思わせるのが呉美保監督と脚本の高田亮の狙いでもあるだろう。何より身近にいそうな主人公嶋田鉄太を選んだキャスティングの勝利である。

⒉現代の小学校

しばらく小学校とはご縁がないので、学校のロケーションは印象的だった。エンディングロールには川崎市の小学校の名前があり、現役の校舎を借りて撮影したことがわかる。よく許可できたなあ。クラスの生徒たちをうまく集めたね。明るいオーク調のフローリングや開放的な校舎は、われわれが知る昭和の暗い焦げ茶色の床を持つ校舎とは対照的である。現代的で柔らかな雰囲気の中でタブレットを使って学習する。今の子どもがうらやましいと感じた。

⒊大人たちのフォロー

蒼井優が演じる母親がやさしく主人公に接していい感じだ。彼女もこんな子どもがいてもおかしくない年齢になった。息子とのやり取りは温かみがあり、いいお母さんだと思わせる。呉美保監督の映画に欠かせない食事のシーンも多い。風間俊介の担任教師はいかにも小学校の教員らしい現実感を感じさせる。声をかけて生徒と触れ合う小学校教師の日常を淡々と演じて良かった。

映画「国宝」の時と同じで最後に大トリのように登場するのが瀧内公美である。環境オタク女子生徒の母親だ。キャリア女性っぽい女性だけどタトゥ強調。悪さをしまくった3人と一緒に保護者が呼び出しにあった時には「家でも環境のことばかり言っている」と娘の日常を打ち明ける。娘が先導したに違いないと言ってかばう訳でない。なぜか救われる気持ちになる。

教員に「何でやったのか」と問い詰められて、ようやく唯士が「彼女が好きだからやった」と正直に打ち明ける。その時、TV「あんぱん」鬼教師と同様にキツめな母親の瀧内公美が思わず笑みを浮かべるシーンが好きだな。はじめは嫌な気分を感じてばかりだったけど、数々の悪事をあくまで「子どもの世界の出来事」に誘導して、最後には少年のまっすぐな気持ちに赦しを見出す流れ絶妙だと感じる。