映画「キングオブニューヨーク」を映画館で観てきました。
映画「キングオブニューヨーク」はクリストファーウォーケン主演の1990年のマフィア映画だ。映画館のハードコア傑作集で何気なく予告編を目を止めるとクリストファーウォーケンの不気味な顔が脳裏に残る。他に行きたい作品も見当たらずに選択する。ニューヨークを舞台にしたアベル・フェラーラ監督の『キング・オブ・ニューヨーク』は、単なるマフィア映画にとどまらず、当時のニューヨークの空気がよくわかるところが魅力的な作品である。
5年の刑期を終えて出所したマフィアの首領フランク・ホワイト(クリストファー・ウォーケン)は、街に戻るとすぐに片腕のジミージャンプ(ローレンスフィッシュバーン)とともに銃を手にライバル組織を粛清する。そして冷酷無比に裏社会の王としての地位を奪い返すのだ。一方で彼は麻薬取引で得た資金を地元ブロンクスの病院の再建に投じ、政界や社会的地位のある人々と交流する。一方で、警察からは強くマークされるようになっていく。
まさにカルト映画で荒っぽいけどおもしろい。
何よりクリストファーウォーケンの冷徹な存在感を観るだけでも価値のある作品だ。フェラーラの演出は時に荒く、音楽は場面に合わず“うるさい”と感じることもある。逆にスタイリッシュなギャング映画とは異なるリアルな感触を生んでいる。
⒈クリストファーウォーケン
クリストファーウォーケンの持ち味は、クールな外見の奥に潜む狂気だ。人相は極悪人そのもの。言葉少なに佇むだけで背筋を寒くする。「裏の支配者」と「慈善家」という矛盾を同時に抱え込む存在が、フランクという人物の不気味な魅力を形作っている。
自分には『ディア・ハンター』でのロシアンルーレットのシーンでの狂気の表現が強く印象に残っている。本当にドキドキした。本作品での冷徹なマフィア王の演技も同じように彼にしか出せない独特の存在感が垣間見れていい。
演説会場でのドナルドトランプのように静かに踊る仕草を見て、「ジャージーボーイズ」で街の顔役だったクリストファーウォーケンが姿を見せるラストを連想した。
⒉警察側の逆襲
警察側の描写がいつものアメリカギャング映画と違う気がする。警官の結婚披露宴など、警察の私生活が丁寧に描かれているのもめずらしい。フランクの手下を逮捕してもトップを通じて弁護士の力で釈放されることに警官たちは業を煮やしている。そこで、ライバルのマフィアと手を組み、強引にフランクのドラッグパーティーに突入を敢行する。最初は単なる抗争に見せておいて、途中で実は警察だったとわかる仕掛けになっており、善悪の境界が崩壊する瞬間を強烈に示す。普通の市民と同じ顔を持つ警察官たちがが暴力の泥沼に飲み込まれていく。
若き日のローレンス・フィッシュバーン(当時はラリー名義)が登場する。今の重厚な俳優像からは想像できない軽さだ。やせた体格でフランクの側近チンピラを演じ、まあ普通のワルを超越する。警察に逮捕された後、釈放されても警察とドンパチだ。のちに数々の作品で威厳ある役を担う彼の初期の姿を知ることができるのも、この映画の面白さだ。
⒊1990年のニューヨーク
1990年のニューヨークを記録した貴重な映像でもある。ニューヨークの倫理が崩壊している姿を濃厚に映し出す。映画でもっとも印象的シーンは、出所直後にフランクが銃を手にライバルを撃ち倒す場面で、まずこの街が暴力に支配されていることを示す。その後も夜のニューヨークが映画の中心となる。フランク主催のド派手なパーティでは正装でタキシード姿が目立つ。その一方で夜のクスリまみれの乱行パーティーの場面は誰もが裸で狂乱の渦となり両極端だ。
マンハッタンの街中に向かって逃走の車がイースト川の橋でカーチェイスする場面、街中で大量のキャブが行き交うカット、チャイナタウンでの中国人マフィアとの撃ち合いなど、ニューヨークの象徴的な風景でのつばぜり合いが強烈に目に焼き付く。「観光都市ニューヨーク」の顔を示しながら、裏側の混沌と危うさをも映像に漂わせる。