映画とライフデザイン

映画ブログを始めて18年、年間180〜200本観ます。時おりグルメ記事や散歩して気に入った場所の記事を書きます。gooの閉鎖で移動してきました。

映画『わたしの知らない子どもたち』 西川美和&二階堂ふみ& 小八重葵美

映画『わたしの知らない子どもたち』を映画館で観てきました。

映画『わたしの知らない子どもたち』は、『ディアドクター』『すばらしき世界』などで知られる西川美和監督が、原案・脚本も手がけた作品である。主演は新人の小八重葵美と二階堂ふみ。出ずっぱりの新人小八重は約500人のオーディションから選ばれた。大健闘だ。これまで西川美和監督の新作は必ずチェックしている。早々に映画館に向かう。

 

戦後の混乱を生き抜いた孤児たち。西川美和監督の力量を改めて感じさせる

西川監督が膨大な資料を読み、関係者に取材を重ねて作品を作り上げたことが十分に伝わる。戦争が終わった後も続く人々の苦労、とりわけ社会から取り残された孤児の生活をここまで具体的に描いている作品はないのではないか。上映時間は150分と長いが、それほど長さを感じなかった。重い内容ではあるものの、丁寧な時代考証と人物描写によって最後まで見せてくれる。

 

物語は1945年3月9日、東京大空襲の直前から始まる。12歳の茅野琴子(小八重葵美)は、音楽家の父・孝一(竹野内豊)のもとで育った。疎開先の学校で友人とピアノを連弾していると、ほかの生徒から敵性音楽を弾いていると非難される。担任の曽根文美子(二階堂ふみ)も、琴子たちを十分にかばうことができない。いつになったら自由にピアノを弾けるのか。その問いに答えられない。

やがて敗戦を迎え、疎開先から東京へ戻る子どもたち。上野駅では友人の父親が迎えに来ているが、琴子の両親は姿を現さない。両親が迎えに来ると言い張る琴子は、曽根が勧める孤児施設にも行こうとせず、上野駅で一人取り残されてしまう。

 

琴子は、上野の地下道や闇市をさまよう。上野のガード下で靴磨きを始めた琴子は、隣で働く女性が男に買われる現実を目にする。少女であることが危険につながる時代。琴子は髪を切り、少年の姿となって「吉田茂男」と名乗り生きていく。やがて同じような境遇の孤児の少年たちと知り合い、闇市を仕切る菊沢組の親分・菊沢徹(岡田准一)のもとで働くようになる。

 

(わからなかったのは)

実家の防空壕のような場所で兄・律朗(櫻井海音)と再会し、闇市で兄が傷痍軍人のヴァイオリンを借りて演奏する場面がある。周囲から絶賛される演奏の後、場面が変わると琴子は一人になっている。この再会が現実だったのか、琴子の空想だったのかが気になる印象的なシーン。

 

⒈ヤクザの菊沢(岡田准一)とTV「あんぱん」との共通点

菊沢が扱うのは闇物資であり、現在の闇バイトにも通じるような仕事だ。子どもたちを料亭へ連れて行き、芸者をあげて遊んでいる男たちを見せる。戦争で悲惨な目に遭った者がいる一方、うまく戦争を切り抜けて、こんな暮らしをしている者もいると語る。その口調は正義感に満ちたものではなく、世の中とはそういうものだという冷めたものだった。菊沢自身も警察との持ちつ持たれつの関係の中で、危うい商売を続けている。

 

この菊沢という人物には、NHKの連続テレビ小説『あんぱん』で妻夫木聡が演じた八木との共通点がある。戦後の混乱期に商売を営み、若者たちの面倒を見ながら町の顔役として生きる人物である。NHKなので裏社会の部分を露骨に描かないが、基本的には似た人物像である。

 

⒉小学校教員の曽根(二階堂ふみ)

元教師の曽根も、敗戦によって苦しい生活を強いられる。疎開先から帰京する際には妊娠しており、やがて父親のいない赤ん坊を抱えて仕事を探す。でも子連れでは容易に雇ってもらえない。結局、子どもを預けられるという条件から、進駐軍兵士を相手にする特殊慰安施設で働くことになる。

 

この展開については少々疑問がある。戦後は教員が不足していた時代である。教員経験のある曽根なら復職という道もあったのではないか?実際、自分が小学生だった昭和40年代前半には、戦前から教師をしていた女性がいた。当時終戦からわずか20年余りしか経っていなかった。とはいっても、乳児を抱えて働くには預け先の問題もあり、当時の女性にとって厳しい時代だったことは想像できる。そういえば、あんぱんの今田美桜も戦前は教員だった。



⒊離島の孤児施設

琴子たちは菊沢のもとで働くうちに警察に補導されて離島にある戦災孤児の施設へ送られる。調べて初めて知り驚いたのは、こうした離島への収容が実際に行われていたという歴史的事実である。東京湾の第五台場には東水園という施設があり、八丈島にも戦災孤児を収容する施設が存在した。

 

施設では、琴子が初潮を迎える重要な場面もある。男の子として暮らしてきた琴子は、突然の出血に驚き、婦人警官に相談する。しかし、婦警はませた少年が卑猥な話をしていると思い、怒って取り合わない。一方、仲間の少年の一人は事情を察したように、何も言わず血の跡をさっと流す。少年は琴子が女の子だと気づいていながら、その秘密を守ったのだろう。印象的な場面であった。

 

⒋新聞記者と脱走

施設は強制労働の飯場のような場所ではない。それでも自由を求める子どもたちは脱走を企てる。新聞記者の諸積(坂東龍汰)が施設を取材することになる。子どもたちは施設の実態を取材させる代わりに、脱走用の船を用意するよう交渉する。脱走当日の夜になっても船が現れず、海へ飛び込んだ子どもたちは危険な目に遭う。

手配された船の漁師山井(役所広司)に助けられ、妻のけい(田中裕子)にも介抱される。けいは琴子が女の子であることに気づくが、それ以上詮索することはない。二人の存在感は強い。

 

⒌西川美和監督と映画の設定

西川美和監督の作品はすべて好きで、高く評価している。じっくり話をしてみたい魅力的な女性だ。今回も映画としての出来に不満はない。ただ、個人的な好みでいえば、前作『すばらしき世界』の方が上である。あちらは元ヤクザを扱った厳しい物語でありながら、どこかコミカルで、人間のおかしみを感じさせる部分があった。今回の作品は終始暗い雰囲気に包まれている。描かれる時代と題材を考えれば仕方ない。

 

戦後の闇市や上野の地下道で暮らす浮浪児の姿は、これまで多くの映画や小説で描かれてきた。阿佐田哲也の小説などにも戦後の修羅場は色濃く表れているし、TVの『あんぱん』にも共通する世界がある。戦後のどさくさを描いたこと自体に目新しさはない。

でも、戦後少女が少年のふりをして生き延びたという設定には既視感はない。戦災孤児を離島に収容していたという事実も映画を通じて新たに知った戦後史である。


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映画『mentor(メンター)』吉田恵輔&磯村勇斗&綾野剛&末澤誠也

映画『mentor(メンター)』を映画館で観てきました。

映画『mentor(メンター)』は、『空白』『ミッシング』などを手がけた𠮷田恵輔監督の脚本・監督による人間ドラマ。主演は磯村勇斗と末澤誠也。二人の人生に大きな影響を与える男性を綾野剛が演じる。今週末は𠮷田恵輔監督の作品を最優先。人間の複雑な心理を描く𠮷田監督らしいストーリー構成の巧みさを期待して映画館に向かう。

 

巧みな人物造形と、気の利いた短編小説のような余韻

𠮷田恵輔監督の作品では、『ミッシング』もよかったが、個人的には直近の『四月の余白』や松山ケンイチ主演の『BLUE/ブルー』の方が好みに合っている。今回の『mentor』もまた個人的に評価できる。とびきりの傑作ではないが、人物の描き分け、自然なセリフ、意外性のある展開、そして余韻を残す結末まで、よく考えられている。

 

映画は、夜のアパートが炎上し、少年たちを含む人々が火災を見守る場面から始まる。何が起きたのか十分には説明されないまま、15年後へと移る。

かつて少年だった益子龍之介(磯村勇斗)と上谷拓海(末澤誠也)は、花火遊びによってアパートを全焼させたとされていた。この火災で住人の埜本潤(綾野剛)は妻(木南晴夏)と子を失い、自らも大やけどを負った。

その後、龍之介はアーチェリー競技に打ち込み、オリンピック日本代表を目指すまでになっていた。一方、拓海は過去の罪悪感から抜け出せず、暗い日々を送っている。そんな拓海が偶然、埜本と再会する。勇気を振り絞って謝罪すると、恨み言を浴びせられるどころか、埜本は思いがけず温かく迎え入れてくれる。拓海はその寛大さに心を動かされ、埜本を人生の師、すなわち「メンター」として慕うようになる。

 

⒈キャラクターの造形が実にうまい。

優れた小説は、登場人物の背景や性格をくどくど説明するのではなく、会話によって自然に人物像を浮かび上がらせる。村上春樹などは、そのあたりが巧みな作家だと思う。

本作にも同じような良さがある。人物の性格を直接説明する台詞は少なくても、日常の会話や何気ない反応から、それぞれのキャラクターが理解できる。登場人物が何を考え、どういう立場にいるのかを無理なく把握できる。

観客に親切な脚本だと思う。説明過多ではないが、説明不足でもない。奇妙な人物が登場し、物語が思わぬ方向へ進んでも、何が起きているのかさっぱりわからなくなることはない。この方が気が楽だ。

 

⒉末澤誠也(拓海)

拓海の埜本(綾野剛)への傾倒ぶりが尋常ではない。埜本の言葉を逐一メモし、頭に刻み込もうとする。さらに、当時のアパート住民を訪ね歩き、謝罪することに生きがい?を見いだしていく。もはや反省というより狂信的ともいえる振る舞いだ。あえて極端な人物として描いているようにも感じられる。拓海の母親(川上麻衣子)が人物像をフォローするのもいい。ジャニーズ系の末澤誠也は初めて知った俳優。柳沢慎吾みたいなキャラがいい感じだ。

 

⒊磯村勇斗(龍之介)

これに対して龍之介は冷静沈着である。オリンピック代表選考を控えている。精神的な集中が求められるアーチェリー競技に打ち込んでいるので、今さら過去の事件に再び関わることを嫌がる。試合の前日にまで謝罪に出向こうとする拓海には抵抗するものの、拓海のしつこさに結局は行動をともにする。龍之介のアーチェリーのコーチや同僚なども登場させて競技の話に踏み込むのは悪くない。

 

⒋綾野剛(埜本)

埜本の顔には大火傷の跡がある。この対照的な二人を、埜本はどちらも受け入れる。三人の性格を明確に描き分けながら、その関係を微妙なバランスで成立させている。

埜本が親しくしているスナックのママ(酒井若菜)も登場する。亡くなった妻の妹である。埜本が火災の原因をつくった二人の青年と親しく付き合っていると知ると、彼女は憤慨する。姉とその子供を失った立場からすれば、当然の反応だろう。

こうした第三者の視点を取り入れることによって、埜本の寛大さが必ずしも誰にでも理解できるものではないことが浮かび上がる。

 

⒌途中からの急展開

やがて三人は、かつてのアパート住民を訪ねて謝罪を重ねる。その過程で、施設に入った父親に代わって娘(黒沢あすか)が応対する家を訪れることになる。そこで思いもよらない話を聞かされ、三人の関係は新たな局面を迎える。

それまで冷静だった龍之介も精神的なバランスを崩す。アーチェリー競技に影響が現れる。拓海のメンターへの接し方にも変化が生まれる。そして、ひたすら寛大だった埜本も抑えていた感情を爆発させる。

温厚な性格の埜本の怒りはようやく感情を表に出したように感じられる。終盤には埜本の怒りがどこへ向かうのか、一瞬緊張させる場面もある。

 

⒍ハグのシーン

なぜか抱擁の場面が繰り返される。人を受け入れて赦すハグ、愛する時のハグが、終盤になると重なり合う場面がある。綾野剛の元妻木南晴夏が妙によく見える。

基調は重苦しい。でも、破滅の物語には向かない。主人公2人も以前より接近。わずかながら光が差すような終わり方。登場人物たちを暗闇の中に突き放して終わらない。気の利いた短編小説を一編読み終えたような読後感を感じる映画である。良かった。


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映画「顔」(2000年) 藤山直美&阪本順治

映画「顔」を名画座で観てきました。

映画『顔』は2000年(平成12年)の阪本順治監督の作品、妹を殺害して逃亡生活を送ることになった中年女性が行く先々でさまざまな人間と出会うロードムービー。主演は藤山直美。2000年度キネマ旬報日本映画ベスト・テン第1位の高い評価を受けた作品。これまでDVDレンタルや配信にもなく観たことがなかったので名画座で観れてうれしい。

福田和子事件を着想源にしているというが、殺人を犯した女性が長期間逃亡するという設定以外、実際の事件とは展開が大きく異なる。

 

藤山直美のずば抜けた力量

犯罪映画というより、社会から孤立していた女性が、逃亡を通じて初めて社会と接する人間ドラマ。陰気で引きこもりの主人公が殺人を犯して初めて外の世界にとけこむ。藤山直美の演技と豪華な脇役には十分に見る価値がある。ネクラで深刻な映画ではなく笑いや生活感を交えているので親しみがある。何より逃亡先でも大楠道代ママとのスナックの場面がいい。二人が作り出す何ともいえない場末の空気に惹かれる。

 

1995年1月14日、阪神・淡路大震災の3日前。吉村正子(藤山直美)は母親の常子(渡辺美佐子)が営むクリーニング店で、洋服の直しなどをミシンでこなしながら暮らしている。太った身体に無愛想な表情。ほとんど家に引きこもり、母親に依存した生活を続けている。水商売をしている妹の由香里(牧瀬里穂)とは幼い頃から折り合いが悪い。

そんなある日、母親が突然亡くなる。自宅で葬儀が営まれていても、正子は二階からなかなか降りてこない。やがて妹と激しい口論になり、はずみで殺害してしまう。正子は家を飛び出し、逃亡生活を始める。野宿している最中に阪神・淡路大震災に遭遇する。

 

大阪の弁天町へ向かい、偶然出会った男(中村勘九郎)にトラックの中で暴行され、その後はホテルの清掃員として住み込みで働く。ホテルの経営者(岸部一徳)は経営者は借金に追われ、ついには自殺してしまう。警察が来るのでホテルを出た正子は自転車同士の衝突で顔を負傷する。その後、列車で九州へ向かう。車内では、以前にも姿を見かけた池田彰(佐藤浩市)と再び出会う。やがて正子は大分へ流れ着く。

 

⒈藤山直美

逃亡生活は決して順調ではない。追い詰められた正子は大分で自殺を図るものの死にきれず、スナックのママ律子(大楠道代)に助けられる。ここから生活は大きく変わる。それまで他人との接触を極端に避けてきた女性が、スナックのホステスとして客の相手をするようになる。客の歌に合わせてタンバリンを持ち、ウキウキしながら身体を動かす正子の姿は、冒頭の陰気で無気力な女性とはまるで別人である。

 

この場面の藤山直美は実にいい。どこにでもいそうな大阪の太ったおばちゃんという風貌だが、さすがは藤山寛美の血を引く天下一品の喜劇役者である。逃亡する女の苦しくもおかしい表情を見せる。引きこもりの時は、『百円の恋』でボクシングを始める前の安藤サクラが演じた女性を思い出した。どちらも社会との関係が希薄だった女性だが、正子の場合は犯罪者として逃亡するうちに変わっていく。

 

⒉逃げる女

福田和子事件は何度もTVで放映されたり、週刊誌の記事を読んだので頭に入っている。まったく違う展開だが、ラブホテル清掃や水商売で働くことなどは類似点はある。周囲に事件が起きて、警察がその事件の捜査で訪れそうになる時危うく自転車で逃げていくのは同じパターン。偶然、指名手配中の正子だと見破られ、ようやく手に入れた穏やかな暮らしからいつも逃げ出すのも類似点と言えるかもしれない。

 

⒊大楠道代

大楠道代と藤山直美が二人が並んで客を相手にする姿は、いかにも場末のスナックそのものだ。演技をしている違和感がまったくない。もっと長くこの二人の場面を見ていたかったほどである。律子は正子に仕事を与え、アパートまで借りて面倒を見る。店を手伝う律子の弟(豊川悦司)はヤクザから足を洗ったつもりでいるが追われている。

 

大楠道代は、安田道代の芸名で大映時代から活躍していた。家の近くに大映の映画館があり、子供の頃に見た江波杏子と共演した女賭博師映画のポスターが目に焼きついている。両性類的スプリンターを演じた増村保造監督の『セックス・チェック 第二の性』もすごい傑作だ。

後年、鈴木清順監督の『ツィゴイネルワイゼン』などで見せた、大人の女としての独特の雰囲気も忘れがたい。『人間失格』での役柄も似たようなスタイル。『顔』のスナックのママはまさに彼女ならではの役どころである。

 

⒋豪華な脇役

脇役の使い方は抜群にうまい。律子の弟で元ヤクザを演じる豊川悦司も、今よりも細身で鋭い顔つきが黒社会の強い匂いを感じる。店の客で妻子持ちなのに正子に言いよる男で國村隼も登場する。妻役はわれわれのマドンナ早乙女愛、今ではすっかり貫禄のついた俳優たちの25年以上前の顔を見るのも楽しい。岸部一徳や佐藤浩市も今よりずっと若い。特に驚いたのは五代目中村勘九郎である。後の十八代目中村勘三郎が、行きずりの女性を暴行するだけのイヤな男を演じている。よくこんな役を引き受けたものだ。

 

⒌平成初期の日本の空気

映画には、設定の1990年代半ばの日本の空気が色濃く残っている。2000年当時の大阪には今よりもまだ泥くさい雰囲気があり、地方の町並みや人々の暮らしぶりには昭和の面影がある。そうした風景の中を転々と主人公が渡り歩いていくロードムービーとしての魅力がある。

もっとも、2000年キネマ旬報の年間第1位のライバルは『ナビィの恋』『御法度』『十五才 学校IV』『バトル・ロワイアル』、加えて自分が大好きな『雨あがる』など、評価の高い日本映画が揃っていた。その中でも『顔』の評価は高い。

藤山直美は相変わらず舞台で頑張っているようだ。同世代として応援したい。


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映画「汝、星のごとく」広瀬すず&横浜流星

映画「汝、星のごとく」を映画館で観てきました。

映画『汝、星のごとく』は凪良ゆうの2023年本屋大賞受賞小説を映画化した作品で、主演は横浜流星と広瀬すず。二人は『流浪の月』以来の共演。監督は『正体』の藤井道人。2週連続でアメリカメジャーの新作に落胆したあとで日本の恋愛映画を観ておきたいと感じて映画館に向かう。

 

広瀬すずの透明感が光る一方、物語の不自然さが惜しまれる

瀬戸内海の島々を結ぶしまなみ海道の俯瞰映像も美しく、大画面で見る価値はあった。広瀬すずが見せた透き通るような透明感に惹かれる。でも、映画全体としては凡長だった。多くの出来事を盛り込んだ物語構成に不自然さが残る。映画として整理する脚本や編集にも物足りなさを感じた。複雑な家庭環境を抱えている役柄を演じた俳優陣の演技には十分満足したものの、傑作と呼ぶにはほど遠い。

 

瀬戸内海に浮かぶ島に京都から転校してきた高校生・青埜櫂(横浜流星)は、スナックを経営する母親のほのか(尾野真千子)が男性を追いかけて移り住んだため、慣れない土地で暮らすことになる。一方、島で育った井上暁海(広瀬すず)の父親は不倫相手の刺繍作家・林瞳子(石田ゆり子)のもとへ去り、母親の志穂(木村佳乃)は悲嘆に暮れている。似たような孤独を抱える櫂と暁海は次第に惹かれ合い、恋人同士となる。

 

高校卒業後、櫂は漫画原作者になるため東京へ向かい、作画担当の久住尚人(松村北斗)と組み、編集者の植木(濱田岳)の支援も受けながら漫画の世界で成功を目指す。暁海は心を病む母親を置いて島を離れることができない。遠距離恋愛となった二人には、次第にすれ違いが生じていく。暁海の高校時代の恩師である北原草介(長谷川博己)も、暁海の人生に関わってくる。

 

⒈強引なすれ違いと作為的な印象

東京では櫂(横浜流星)が漫画雑誌の連載の仕事に打ち込む。遠距離恋愛の二人には距離が生まれ、恋愛と仕事を両立させるのが難しい。櫂と暁海(広瀬すず)の人生にはさまざまな出来事が起こり幾度となく重要な選択を迫られる。ただ、物語が進むにつれて、登場人物の行動や出来事のつながりに作為的な印象が強まっていく。

 

映画を見ていて最も不自然に感じたのは、櫂が漫画家として成功した後、暁海とホテルで再会する場面。連載で疲労困憊とはいっても、わざわざ指輪も買って会いにきた場面で、櫂の態度がおかしい。しかも眠ってしまう。ものすごく不自然な展開に感じた。むしろ、物語を先へ進めるために、作者が無理にすれ違いを作り出したように感じられた。

 

⒉父親の不倫相手との関わりと強引さ

暁海(広瀬すず)が憧れる瞳子(石田ゆり子)はオートクチュールの刺繍を仕事にする自立した女性。この女性こそ父親の不倫相手だった。暁海は彼女から刺繍を学び、将来の仕事にしようと考える。

しかし、母親(木村佳乃)を精神的に苦しめた女性を人生の師匠にするという設定には、強引な印象も残る。そもそも映画を観ながら、こんな田舎で刺繍だけで稼げるのだろうか?という疑問で非現実な物語にも見えてくる。

 

⒊漫画制作の場面

映画での漫画制作の世界はもう少し丁寧に描いてほしかった。個人的に『ハケンアニメ!』のような創作の現場を扱った映画は大好き。原作者と作画担当が協力して作品を生み出す過程には、それだけで十分な面白さがある。しかし、本作では恋愛や家庭問題など、多くの要素を盛り込んだためか、漫画制作の描写は比較的あっさりしすぎているのは惜しい。

 

⒋藤井道人監督

藤井道人監督の作品は以前から好きだ。木村大作のカメラが映える舘ひろし主演『港のひかり』も東映ぽくて良かったし、台湾を舞台にした『青春18×2 君へと続く道』はその年ではいちばん好きな作品。

でも、今回はこれまでの作品に比べてテンポが鈍い。もう少し省略できる場面があったのではないだろうか。終盤に向けて次々と出来事が起こるものの、そこに至るまでの運びも、最後のまとめ方もスッキリできたように思う。脚本と編集にも整理不足があったのではないか。

 

⒋広瀬すずの透明感

『宝島』では強い感情を前面に出した演技が印象に残った。これはこれで良かった。ここでは意図的な演技ではない広瀬すずの持つ持ち前の優しさがにじみ出ている。とりわけ、終盤で見せる穏やかな表情とまなざしには心を揺さぶられる。

病棟にいる相手をいたわる気持ちが映像で伝わり、静かな演技の中で表現している。見ているこちらまで癒やされる。これは広瀬すずならではの魅力であり、今回は内側からにじみ出るような優しさと透明感が抜群に良かった。

 

⒌横浜流星の激やせ

横浜流星の役作りは見事だった。前回の広瀬すずとの共演「流浪の月」のDV夫役も憎たらしくて良かった。物語が終盤に向かうにつれて、それまでいつも観る横浜流星のままだったのに、容姿に大きな変化が現れる。映画を観ながら意図的に激やせしたのがわかる。実際に40キロ台まで大幅な減量を行って撮影に臨んだらしい。松村北斗も時間の経過に伴う外見の変化を見せ、二人とも役に対する取り組みは徹底している。

 

⒍好演の脇役

特に横浜流星の母親役の尾野真千子が良かった。恋愛に奔放な女性で、息子は幼い頃からその生き方に振り回されてきた。男を追いかけ、息子を振り回すスナックのママという役柄がピッタリ。以前から風俗勤めのシングルマザーや奔放な女性を演じてきたが、今回もいかにもこういう女性がいそうだと思わせる自然さがあった。

木村佳乃はここまで精神を錯乱させる役柄を演じたことがあっただろうか。一瞬他人かと思う。中年男性に人気の高い石田ゆり子の不倫女性役もピッタリ。ひょうひょうとした高校教師長谷川博己も途中から一気に存在感を強める。


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映画『DIGGER/ディガー』トム・クルーズ

映画『DIGGER/ディガー』を映画館で観てきました。

映画『DIGGER/ディガー』はトム・クルーズ主演の新作。トムクルーズの映画は必ず観ることにしている。ハリウッドを代表する千両役者が、今回はこれまでのイメージを大きく変え、傲慢な石油王を演じる。しかも監督はアレハンドロ・G・イニャリトゥ。10年ぶりの新作で『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』『レヴェナント:蘇えりし者』など、これまでの作品はどれも好きな映画である。それだけに期待して出かけた。

 

観終わってみると、どうにも釈然としない

権力者への風刺、石油依存社会への批判、極端な環境破壊の描写。それぞれに興味深い要素がある。それらが一本の映画としてうまく結びついていない。トム・クルーズは確かに頑張っている。演技も見事なものだと思う。それでも、どうにも映画がしっくりこない。好きな監督と好きな俳優の組み合わせだからこそ、余計に残念な気持ちが残った。

 

地球環境が深刻な危機に直面した近未来。ディガー・ロックウェル(トム・クルーズ)は、巨大な石油採掘会社を経営する大富豪で、傲慢な権力者である。グリーンランドの採掘所で氷棚の亀裂と海底の異変が報告されても、操業を続けさせる。自らの利益を追求することに執着し、大爆発で氷が割れて、巨大な氷塊がヨーロッパに向かって流れ始めた。その事業活動が地球規模の環境危機を引き起こしてしまう。

 

欧州各地の大都市が洪水に襲われ、人々の生活は混乱に陥っている。ディガーは大統領(ジョン・グッドマン)から事態の収拾を求められるが、自らの責任を反省する様子は乏しく、ホワイトハウスの危機対応会議でも主導権を握ろうとする。むしろ自分の権力や立場を守ることに関心がある。その言動は周囲との摩擦や混乱を生み出していく。

 

⒈トムクルーズ

今回のトム・クルーズは、これまでの華やかなスターのイメージをかなぐり捨てている。特殊メイクによる老け役も徹底しており、いつもの颯爽とした姿とはまるで違う。表情や身振りにも権力者特有の傲慢さがにじみ出ている。

レハンドロ・G・イニャリトゥは『バードマン』『レヴェナント』で2年連続のアカデミー賞監督賞を受賞している。『レヴェナント』ではレオナルド・ディカプリオが念願の主演男優賞に輝いた。

一方、無冠の帝王トム・クルーズは演技部門で受賞には至っていない。今回の異色の役柄には、アカデミー賞を意識した挑戦という側面もあったのかもしれない。長い演説シーンをはじめ、トム・クルーズの演技力には感心した。しかし、それが作品全体への満足感につながってはいない。

 

⒉長回しの演説シーン

印象的だったのは、トム・クルーズによる長回しの演説シーンである。いつもになく長いセリフを語って、強烈な個性で画面を支配する姿には、さすがと思わせる演技力があった。

その演説でディガーは、石油産業を批判する人々に対して、あなた方自身も石油に依存した生活をしているではないか、と反撃する。この主張には一理ある。現代社会は輸送、衣類、プラスチック製品をはじめ、さまざまな分野で石油に依存している。石油産業を一方的に悪者にしても、生活から簡単に排除できるものではない。

もちろん、それによって環境破壊を引き起こした企業の責任が免除されるわけではない。しかし、環境問題を声高に批判する側にも矛盾があることを突いている。



 

⒊環境破壊

映画で描かれる環境破壊はあまりにも極端である。近未来という設定だとしても、世界の大都市が次々と大洪水に襲われる光景には現実感が乏しい。科学的な未来予測というより、環境問題と人間の傲慢さを強調するための寓話として受け止めるべきなのだろう。イニャリトゥ監督らしい大胆な表現ではあるが、その極端さで物語へ入りにくい。

『バードマン』も舞台と現実が複雑に交錯する、決してわかりやすい作品ではなかった。それでも主人公の焦燥感や名声への執着の方がなじめる。今回の『ディガー』は、それ以上にとっつきにくい。

物語が進むにつれて表現も構成も複雑になる。私たちが見ていたのは石油王の演説であると同時に、その石油王を演じている俳優の演技でもあったことになる。思わぬ方向に進むのはここではあえて深入りしない。これは『バードマン』にも通じるイニャリトゥらしい仕掛けだった。

 

先週観た『ディスクロージャー・デイズ』も、壮大な題材を扱いながら説明不足が気になる作品だった。米国のメジャー映画人による期待の新作で2週連続でハズレを引いたのにはまいった。


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映画『ディスクロージャー・デイ』スティーヴン・スピルバーグ&エミリー・ブラント

映画『ディスクロージャー・デイ』はスティーヴン・スピルバーグ監督の新作。原案もスピルバーグ自身、脚本はデヴィッド・コープ、音楽はおなじみジョン・ウィリアムズ。『未知との遭遇』『E.T.』と、スピルバーグは長年にわたり人類とUFO、地球外生命体との接触を描いてきた。その延長線上にあるテーマを持つ作品だけに期待は大きかった。

 

最後まで乗り切れない訳がわからない映画

主要人物それぞれについて「?」が重なり、途中まで何が起きているのかほとんどつかめない状態が続いた。映像的には見応えがあり、「これぞスピルバーグ」という瞬間もある。それだけに、もう少し早い段階で物語の足場を示してくれていればという思いが残る。評価が賛否に分かれるという話も、実際に見終わるとよく分かる。

 

物語の中心となるのは、テレビ局の気象キャスター、マーガレット・フェアチャイルド(エミリー・ブラント)と、サイバーセキュリティの専門家ダニエル・ケルナー博士(ジョシュ・オコナー)である。接点のなかった二人が、地球外生命体やUAPに関する重大な秘密に巻き込まれていく。

 

⒈エミリー・ブラント

マーガレットには不可解な異変が起きる。生放送へ向かう途中、スピード違反で警官に止められた彼女は、突然、意味の分からない言葉を口にする。すると警官の態度が変わり、渡していた免許証なども返され、そのまま走り出すことができる。韓国語ができないのに韓国人とベラベラ韓国語で会話する。

さらに生放送中にも不可解な言葉を発する。最初は何が起きているのかまったく分からないが、やがて彼女には、通常では考えられない形で相手を理解し、意思を伝える能力があるらしいことが見えてくる。

 

⒉ジュシュ・コーナーと秘密組織

ダニエルは、地球外生命体やUAPに関する情報を秘密裏に管理してきた組織「ワーデックス」から機密情報を持ち出し、追われる身となっている。ワーデックスを率いるノア(コリン・ファース)は、地球外生命体の存在が公になれば社会秩序が崩壊すると考え、情報を秘匿し続けている。

謎めいたヒューゴ(コールマン・ドミンゴ)が、マーガレットとダニエルを導いていく。作品情報を読めばわかっても、映画を見ている途中では、こうした人物の立場や目的がなかなか明確にならないで困った。

 

⒊よくわからない展開

序盤には1973年のUFO墜落をめぐる出来事が示され、ニクソン大統領も登場する。アメリカがはるか以前から地球外生命体について何かを知り、それを秘密にしてきたことが物語の前提。そしてタイトルの「Disclosure」とは「開示」。長年隠されてきた真実を人類に明らかにすることなのだ。

ただし、そこへ至るまでが長い。マーガレットはいったい何者なのか。ダニエルはなぜここまで執拗に追われているのか。ノア率いる組織の正体と目的は何なのか。ヒューゴは何者なのか。さっぱりわからない。意識的に説明を避け、断片的な情報だけを提示して進んでいく。

映画には説明しすぎない方がいい場合もある。しかし「説明しないこと」と「物語を理解するための手掛かりまで与えないこと」は違う。判断するための材料そのものが不足している感覚をもった。終盤になって「開示」というタイトルの意味と、それまでの出来事がようやく結びついてくる。でもそこまでが長い。

 

⒋強烈な列車激突シーン

さすがスピルバーグと思わせる圧巻の場面がある。マーガレットとダニエルが車で踏切に停車していると、ワーデックスの刺客ボイドが運転する車が後方から激突してくる。マーガレットが懸命にブレーキを踏んでも、車はぐんぐん線路内へ押し込まれる。そこへ巨大な貨物列車が迫り、ついには衝突。さらに車が列車に引きずられ、二人は貨物列車へ逃れようとするが、反対方向からも列車が迫ってくる。

 

ここだけは説明も必要ない。逃げなければ死ぬという状況が一目で分かり、恐怖そのものだ。スピルバーグ初期の名作『激突!』を連想する。自動車という巨大な機械によって物理的に追い詰められ、逃げ道を奪われていく恐怖。その原始的な怖さが、半世紀以上を経て大規模な列車アクションとして蘇る。実はこれが最大の見せ場でスピルバーグの健在ぶりを十分に感じた。


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映画「藁にもすがる獣たち」森七菜&城定秀夫

映画「藁にもすがる獣たち」を映画館で見てきました。

映画『藁にもすがる獣たち』は、曽根圭介の同名小説を城定秀夫監督が映画化したクライム劇。2021年には韓国でも映画化されているが、今回はそのリメイクでなく日本で映像化した作品だ。脚本は城定秀夫と小林靖子。

もともとピンク映画出身の城定秀夫の作品は相性がいい。理屈よりまず観客を楽しませるのが得意。今回「東映プログラムピクチャーの復刻」をテーマにした城定秀夫が東映ヤクザ映画の要素を取り入れる。

 

最後まで破天荒で、東映らしさを感じる城定秀夫監督の怪作

1億円のバッグをバトンにした緻密に組み立てられた時間軸、癖のある脇役たち、何より森七菜の悪女ぶり。城定秀夫という職人監督の力量を改めて感じさせる、よくできた一本。近頃ではめずらしい娯楽映画の精神をもつ。おもしろかった。

 

物語は一見、まったく別々の三つの話から始まる。

佐藤寛治(鈴鹿央士)は、登録者数わずか二桁の大学生YouTuber。認知症が疑われる祖母・富子(風吹ジュン)と暮らしながらネットカフェでアルバイトをしている。ある日、ネットカフェに置き忘れられたボストンバッグを開けると、そこには1億円の札束が入っていた。

 

生活安全課の警官・江波戸良介(成宮寛貴)は、裏社会ともつながる不良警官で、ヤクザの親分・郷田(岩松了)から借りた金を返せず追い詰められている。そしてもう一つの流れでは、DV夫に苦しみ、路上で客を取る美奈(MEGUMI)の前に、謎めいた女マリア(森七菜)が現れる。「旦那を処理したくなったら声をかけて」と平然と言う危険な女である。

 

美奈に熱を上げる武藤(前田旺志郎)は彼女をDV夫から救おうとして、夫を交通事故に見せかけて殺そうとする。しかし人違いで別の男を轢き殺してしまう。その死体を埋めたものの、武藤は自責の念に耐えられない。今度は美奈が武藤を車で轢き、以前声をかけてきたマリアを呼び出す。

保険金目当てのマリアは、死んでいるのが美奈の夫ではないと知って拍子抜け。でも、武藤が誤って轢き殺した男が例の大金の入ったバッグを持っていたのだ。

ここから、それまで無関係に見えていた話が急速につながり始める。

 

⒈時間の扱いのうまさ

最初に寛治(鈴鹿央士)がネットカフェで1億円を発見する場面を見せるので、江波戸(成宮寛貴)や美奈(MEGUMI)たちの話も同じ時間に進んでいると思い込んでいた。しかし実際には、彼らの出来事はバッグがネットカフェへたどり着く少し前の話なのである。「数日前」「何時間前」といったテロップは一切出さない。バッグの移動と人物の接続によって、途中で「あれ、同時進行ではなかったのか?」と気づかせる。この構成は実にうまい。バラバラだったパズルが突然一枚の絵になるような快感がある。

 

⒉悪女森七菜にビックリ

何より驚かされたのは森七菜。最後のエンドロールを見るまで彼女だと気づかなかった。公式HPには「し~な」という役名だが、劇中ではマリアと呼ばれている。これまでの森七菜からは想像しにくい悪女ぶりで、髪形や化粧だけではない。声、目つき、男との距離の取り方まで別人のようである。

岩松了のヤクザの親分や本庁から来た警察官に色目を使う場面など、思いのほか艶っぽい。相手を手玉に取り、自分の目的のためなら色気さえ武器にする女だ。何度も危うい体験をした自分だからよくわかる。その危うさが実に魅力的で、今回の映画でずば抜けて印象に残った。

 

⒊脇役の活躍

鈴鹿央士は主人公ではあるが、今回は周囲の人物が強烈で、やや影が薄い。ここ数作連続で観ている風吹ジュンの祖母も、最初は単なる認知症のおばあさんかと思わせて、実はそう単純ではない。

岩松了のヤクザの親分がらしい雰囲気。小手伸也演じる本庁から来た警察官は柔道の猛者のような体格で役柄ピッタリ。ヤクザのチンピラたちも存在感を残す。とりわけ郷田の手下エリンギを演じる青木マッチョは、頑強な肉体と残虐な仕打ちで「この男には逆らわない方がいい」と思わせる怖さがあった。

 

⒋東映ヤクザ映画の挿入

車が暴走して映画館へ突っ込み、成宮演じる江波戸とエリンギが激しく取っ組み合う終盤の映画館の場面がハチャメチャ。その背後の巨大スクリーンでは東映の『仁義なき戦い』が上映されている。血しぶきを浴びながら菅原文太の「山守さん、弾はまだ残っとるがよお」という第1作最後の名セリフが響くとワクワクする。

「仁義なき戦い」の荒々しいエネルギーと2026年のハチャメチャな乱闘が重なる。これは東映だからこそできる遊び。城定が掲げた「東映プログラムピクチャーの復刻」を鮮やかに示す。

 


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