映画「JOIKA 美と狂気のバレリーナ」を映画館で観てきました。
映画「JOIKA 美と狂気のバレリーナ」は実話に基づく米国からロシアに渡ったバレリーナの物語だ。主役のジョイは米国で実績を積んだ後でロシアに渡り、名門ボリショイ・バレエ団の舞台に立つのが夢のバレリーナだ。バレエが題材でポスターの雰囲気からすると、ナタリーポートマンがアカデミー賞主演女優賞を受賞した「ブラックスワン」を連想する。同じようなサイコスリラーを思わせる予告編を観るとおもしろそうだ。アメリカ人女性で初めてボリショイ・バレエ団とソリスト契約を結んだジョイ・ウーマックの実話が題材だ。
主役のタリア・ライダーは望まぬ妊娠の物語「17歳の瞳に映る世界」で観て以来だ。きびしい指導のコーチ役をダイアンクルーガーが演じる。このブログができた頃は好みの女優で何度も取り上げた。英国ロイヤル・バレエ団でダンサーを目指していたそうだ。レイフファインズ監督のバレエ物語「ホワイト・クロウ」でオレグ・イヴェンコは亡命するダンサーを演じた。今回はジョイカの恋人役だ。ストーリーのアップダウンが激しく、次々に展開が変わる映画だった。
15歳のアメリカ人バレリーナ、ジョイ・ウーマック(タリア・ライダー)の夢はボリショイ・バレエ団のプリマ・バレリーナになること。単身ロシアに渡りアカデミーの練習生となったジョイを待ち構えていたのは、常人には理解できない完璧さを求める伝説的な教師ヴォルコワ(ダイアン・クルーガー)の脅迫的なレッスンだった。
過激な減量やトレーニング、日々浴びせられる罵詈雑言、ライバル同士の蹴落とし合い。ボリショイが求める完璧なプリマを目指すため、ジョイの行動はエスカレートしていく…!(作品情報 引用)
とても実話に基づくとは思えないほど紆余屈折が激しい物語。逆転に次ぐ逆転で期待を大きく上回るおもしろさだった。必見だ。
ともかくボリショイバレエ団のプリマバレリーナになるための上昇志向が強い。自信満々で米国からロシアに渡ったのに一筋縄では行かない。アカデミーでのコーチの指導は常に罵声できびしい。ライバルも多い。周囲のバレエダンサーから嫌がらせも受ける。選ばれるために足の引っ張りあいだ。追い詰められて気持ちが空回りしてしまうこともある。何度も理不尽な目に遭う。まともな精神力ではもたないだろう。スポーツ根性モノにも共通する流れだ。
「ブラックスワン」は頂点にいるプリマがライバルの存在に精神の安定を失う映画だったのに対して、この映画は頂点に這いあがろうとするのに次から次へと障害となる出来事が起きる展開だ。副題に「狂気」とあるが、完全に精神の安定を失ったわけでない。むしろ、不屈の精神で立ち上がる。レジリエンスが強いのかもしれない。
⒈ロシア人でないと認められない
同じバレエアカデミーには男性のバレエダンサーも練習している。その中のニコライと仲良くなり時折会うようになる。ジョイは腕をあげて世界最高峰のバレエ団ボリショイバレエ団員になろうと日夜練習を重ねてチャンスをつかんだ。心配で仕方ない故郷アメリカの家族にもいい結果になりそうと連絡する。
ところが、いよいよ選ばれたかと思ったのに選ばれない。何故なの?と嘆くジョイにロシア人でないからだとの無情な声。そこで落胆のジョイは決断する。ニコライと結婚すればロシア人になれると。これもすごい話だ。ニコライの母親立ち会いのもと結婚して証明書を鬼コーチに渡すのだ。あらゆる手段を使って入団しようとする。ここまでやるか!
⒉スポンサーが必要
ボリショイバレエでもプリマになりたい。それにはスポンサーも必要だ。共産圏社会でなくなった後も、旧ソ連、中国は裏の何かが動く社会だ。ビジネスにはコネクションがつきものなのは旧共産圏だけではないだろう。有力者からの接近がありジョイはセットされた夜の逢引きに臨む。這い上がるために女の武器をあえて使う女性ダンサーもいるだろう。裏ではありがちな話だ。ところがそうしなかった。結局は退団を余儀なくされる。
あるマスコミに一部始終をバラすと、逆にマスコミを通じて「裏切り者」とのバッシングを受けて新聞にも記事が掲載されてしまうのだ。あえて結婚したニコライからも白い目を向けられる。悲しい。ジョイは行き場を失い転落する。
⒊何度も窮地に陥る。
ここまで主役を何度も落胆した気持ちに陥らせる映画も少ないだろう。これは最後の最後まで続く。アカデミーでの鬼コーチの指導だけでなく、アカデミーでボリショイバレエ団員を目指して競い合うダンサーの陰湿なイジメでチャンスを逃しそうになる。ボリショイバレエに入ってからも、よくありがちなセクハラに逆らって裏切り者の烙印を受けるし、気がつくとトイレ掃除で生計を立てる始末。
それらのどん底に堕ちる場面を切り抜けていく。運がいいのかもしれない。実はいろんな人に支えられている。最後に向けて思わぬ人から救いの手を差し伸べてもらう。その後でもピンチが訪れる。そんなジョイを捉えるカメラワークも良くハラハラドキドキの展開であった。