映画「続々 大番 怒涛篇(第3作)」は1957年(昭和32年)の東宝映画。獅子文六原作「大番」の第3作だ。兜町の風雲児赤羽丑之助が鐘紡の相場で大損を出して故郷に帰ってヤミ商売を営む昭和13年(1938年)から昭和16年末(1941年)の物語である。
日経平均も復調して証券市場も活気を帯びてきた。今日は高市政権成立が維新との連立で何とかなりそうということで日経平均も上昇。でもまだ落ち着かない。異論もあるだろうが、個人的には円安を望んでいる。円安は日本が相対的なインフレ基調のためモノに対して通貨の価値が下がる現象。日本にとっては円安のほうが円高より安泰だ。世界に取り残されている日本には円安のハンデが必要との自分の認識である。
相場の予想と株で儲けるのは違う。前2作でもギューちゃんはひたすら買い乗せで攻めていく。ただ、大勝ちがあっても途中でひと段落せずに一気に破綻のパターンも多い。いったん崩れてまた戻る。そんなアップダウン人生を見るのは楽しい。
昭和13年初秋。「ギューちゃん」こと赤羽丑之助(加東大介)は新鐘紡の大相場に失敗して、一緒に組んだ証券会社社長・木谷の死に打ちのめされただけでなく巨額の借金で沈没。失意の中でおまきさん(淡島千景)とも離れて故郷宇和島へ戻る場面からスタートする。故郷に戻るとちょうど地元の名士森家のお嬢様有島可奈子(原節子)も伯爵の夫と帰郷していた。
相変わらず町の人たちは丑之助を東京での成功者と扱ってくれた。森家での帰郷祝いにも招待される。日中戦争の進行で物資は逼迫。いりこ(煮干し)は統制で管理されて、軍手や地下足袋が不足している現実を丑之助は商機と見た。旧知の勝やん(三木のり平)と組み、森家から船を借りていりこを大阪へ運んで軍手・地下足袋を仕入れる往復の闇商売に乗り出す。
大阪の闇屋と組み商売は軌道に乗る。大阪に住む勝やんがホームシックになり、代わりに丑之助が大阪に移住する。羽振りも良くなり昔面倒をみた芸妓梅香(青山京子)とも偶然再会する。ところが、宇和島から密輸で運ぶ船が摘発されて大量のみかんを運び損なった。依頼主とは決裂だ。株の相棒新どん(仲代達矢)は出征で大阪に遊びに来ていたおまきさんと見送りをする。そろそろ株に戻れと諭される。
やがて昭和16年12月8日に開戦すると、丑之助は日本はアメリカに勝てるはずがないとひらめく。北浜の証券会社に行き、商いで儲けたお金を東新株の売りに投入する。ところが、日本軍は連戦連勝で相場は急上昇。損が積み上がる。おまきさんが資金を携え駆けつけた時には、ふたたび失意の帰郷途上にあった。
ギューちゃんの闇屋稼業が中心の物語、相変わらずおもしろい
丑之助が故郷に戻って農業をやろうとしても、段々畑の傾斜にグッタリ。それが無理と商いの基本「安く儲けて高く売る」を実行しようとする。あいにく戦時中の政府統制で物品の流通が不都合な状況だ。大阪の闇稼業の商人と組んでしっかり儲ける。ても何もかもうまくいくとは限らない。相変わらずのアップダウン
⒈故郷宇和島での日々
東京から宇和島に帰郷するのに大阪から船に乗って愛媛の八幡浜港に向かう。そこから湾岸沿いのじゃり道を走るバスに乗って宇和島に向かうのだ。昭和32年公開のこの作品と戦前の宇和島とは時間的に大して変わっていないのではないか。自分の家人の両親が八幡浜出身で、遊びに行った時この映画と同じような海を望む段々畑がひらけていた。懐かしい。
丑之助が相場でスッテンテンになっても情報の伝わらない戦前ではいまだ東京の成功者で、小学校の式典でも祝辞を述べる。そこでも自分の丑(うし)の名前にひっかけてbullとbearの話をするのだ。おもしろい!しかも、可奈子(原節子)の実家である素封家にも呼ばれる。こんなのんきなところがいかにも戦前の田舎らしい。
⒉大阪との闇の商売
映画で「いりこ」と言われてもピンとこない。モノクロ映画だとなおのことわからないが、煮干しのようだ。統制経済では物資の流通も管理されている。商人の町大阪には戦前からいかにも闇商人がいそうだ。弁護士をやりながら裏で商いをする帝塚山の豪邸に住む男(山茶花究)からみかんを大量に運ぶように依頼されて請け負うが失敗する。取り締まりに対処する丑之助のパフォーマンスがいかにもおかしい。
⒊大阪の地名や映像
船が到着する場所は安治川だ。映画でも海上警察が取り締まっている。大阪港というのは戦前から変わっていないのであろうか?これはわからない。
丑之助が遊びにいくのは堀江だ。盛んに通って元のなじみの芸妓と偶然出会うのだ。食事した後はお店の人が別部屋で布団を敷くなんてことは戦後も変わらなかったのかな?自分が大阪にいた頃はもうその気配はなかった。直近では転勤者が数多く住んでいると聞く。
帝塚山の豪邸に住む異色の闇商人の家に行くと、いかにも大阪らしい豪勢な板塀の造りである。東京と違い大阪は中心部に高級住宅街がなく帝塚山だけは異色。歴史が古い町なので道路は狭い。だけど、最近はどうなんだろう。
⒋新東(東京証券取引所株)
戦前は新東という証券相場を代表する東京証券取引所の株があった。今でいう平和不動産である。東証に旧指定銘柄があった時は短波放送でもいちばん最初に呼ばれていた。戦前のシステムに詳しいわけではないが、短期長期の精算取引があったようだ。すなわち今で言う信用取引なんだろう。先物並みのレバレッジだったのか?これはよくわからない。丑之助も証拠金で大きく売買する場面が続く。
丑之助はそれまで「買いのギューちゃん」で日産株も鐘紡もひたすら買いまくったのに、戦争が始まると日本はアメリカに勝てないと一気に新東の「売り」で勝負だ。そんな時に限って、日本軍は連戦連勝だ。急騰で清算取引だから一気にオジャンだ。
最終的には日本の戦況は悪化するわけで丑之助の読みは正しい。でも、予測と株で儲けるは違う。現物株と信用取引とは違うゲームと言ってもいい。見込みが外れるとあっという間にゲームセットになる。今も現物でなく信用取引で有り金張っている人はあっという間にオケラになるのと同じだ。信用取引や先物のレバレッジは怖い。