映画「ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男」を映画館で観てきました。
「ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男」原題『Midas Man』は、ビートルズを発掘し世界的成功に導いた伝説のマネジャー、ブライアン・エプスタインの生涯を描いた伝記映画である。監督はジョー・スティーブンソン。ビートルズ史を知る人にとってはマネジャーのブライアンは誰でも知っている存在で、全盛時に突然亡くなったことも有名だ。ただ、どんな人生を歩んだのか突っ込むことはなかったので予告編から気になっていた。
タイトルの“Midas”の意味は神話のミダス王に由来し、「黄金を生み出す男」と同時に「成功の代償に破滅を招く存在」という二重の意味を帯び、エプスタインの光と影を象徴している。
リヴァプールの家具店の跡取りとして育ったブライアン・エプスタイン(ジェイコブ・フォーチュン=ロイド)は、店舗の一部を父ハリー(エディ・マーサン)からレコード売場として分けてもらい切り盛りしていた。地元キャヴァンクラブでブライアンは無名のビートルズを見出し、マネジメント契約を結ぶ。EMIのジョージ・マーティンとの契約交渉を成功させ、ピート・ベストを外してリンゴ・スターを迎えるなど、バンドをプロとして整えビートルズは「Love Me Do」でデビューした。
「From Me to You」で初の全英1位になった後にアメリカ進出を目指す。ブライアン・エプスタインは人気の鍵となるエド・サリヴァン・ショー出演をまとめ上げ、ビートルズを国際的スターへと押し上げる。しかし、世界的成功は常に摩擦と隣り合わせだった。日本公演、フィリピン公演でトラブルが続き、アメリカでもジョンのキリストに関する発言が大問題になる。結果としてビートルズが「もうツアーを辞めたい」と言い出すきっかけとなる。
ビートルズ史を裏側から支えた人物の実像を映像で描き出す
ビートルズ史の重要局面でブライアン・エプスタインがいかに重要な役割を果たしたのかが良くわかる。ビートルズファンは必見だ。もちろんリヴァプールのキャヴァンクラブで発掘したことに大きな意義はあってもそれだけでない。特にピートベストからリンゴスターへのドラムスチェンジ、アメリカの超人気番組エドサリバンショーへの出演交渉にブライアン・エプスタインが関わっていたことを映像で浮き彫りにする。予想よりも良かった。
ただ、ブライアン・エプスタインにも影があった。敏腕マネジャーとしてバンドのポテンシャルを最大限花開かせた一方で、ホモセクシャルとしての一面やストレスから過度の薬物に依存することにも映像はウェイトを置く。本などで読んでいて知っていたことでも、こうやって映像で観れると親近感を感じる。
⒈ブライアンエプスタインの活躍
本作ではカメラに向かって本人が自らの軌跡を語るようなスタイルをとり、エプスタインの交渉力や存在感が前面に出される。キャヴァン・クラブでの発掘、ピート・ベストへの引導口達、エド・サリヴァンショーへの異例の3週連続出演、ツアーでのトラブル処理などビートルズの重要局面に関わってきた。
ユダヤ系の富裕層で生まれた彼は家業の家具屋経営に飽き足らずレコード店も営む。自分はブライアンを単なるマネジャーと思っていた。そうではなく音楽事務所「NEMS Enterprises」 の経営者としてプロデューサーであったことが映画で明確になる。日本で言うなら 「音楽事務所の社長兼、ビートルズの専属マネジャー」という両方の立場を兼ねた人物なのだ。
⒉ビートルズのツアー退却のきっかけ
1966年の日本武道館公演は右翼から猛反発を受け、フィリピンではイメルダ夫人の招待を断ったことで怒りを買い、メンバーの身の危険にまで発展する。さらにアメリカではジョンレノンの「ビートルズはキリスト以上に有名」という発言が大きな反発を呼び、レコード焼却騒動にまで発展した。これら一連のトラブルは、エプスタインが矢面に立って解決に奔走した。映画はその暗部をしっかりと描き、ビートルズ史の転換点が再認識できる。確かにメンバーも嫌気がさすよね。
⒊ブライアン・エプスタインの私生活
作品はブライアンエプスタインの私生活にも踏み込む。社会に受け入れられなかった同性愛者としての孤独や、薬物依存の深まりを強調する。弟が結婚し家庭を築く一方で、心労と孤立の果てに32歳で急死する。数え年でいえば33歳、女性の「大厄」にあたる年齢であり、自分の周囲でもこの歳にエライ目にあった人が数多い。「身体の疲労がたまる節目の年齢に不幸が重なった」と感じさせる。
世界的なバンドを抱えて、ワールドツアー、契約交渉、メディア対応……すべてを一手に引き受けたのは、今考えても酷な重責だ。その重圧を和らげる心の拠り所が乏しかった。しかも当時の英国では同性愛は違法行為(刑罰対象)で公に同性愛を生きるのはほぼ不可能。弟のように結婚して家庭を築いていたら、孤独や不安から薬に頼る度合いも少なかったかもしれない。そうすれば心身を壊さず、もう少し長生きした可能性は十分あった気がする。
ブライアン・エプスタインの死は、「重責による心労」「社会的に受け入れられなかった同性愛の孤独」「薬物依存による体調悪化」 この三つが絡み合った悲劇だとつくづく思う。