映画「港のひかり」を映画館で観てきました。
映画『港のひかり』は名カメラマン木村大作が86歳にして得意の雪国の海を映す新作だ。監督の藤井道人は元ヤクザの役柄で舘ひろしを起用する。予告編を観るだけでだいたいのストーリーは読めたが、荒波のシーンを観ながら無性にこの映画で木村大作の熟年技を観てみたくなった。
冬の海と雪が、忘れがたい余韻となって心に残る作品で肌になじむ。
ヤクザ稼業から足を洗ったけど事件に巻き込まれるパターンで、高倉健主演映画では「冬の華」や「夜叉」とのアナロジーを感じるストーリーだ。舘ひろしに込められた健さんの残響と、木村大作の映像世界を見事に結び合わせた昭和の匂いがするハードボイルド作品を観れるのはうれしい。

北陸の小さな港町。かつてヤクザ組織で“若者頭”として名を馳せた三浦(舘ひろし)は組を離れ、孤独にひっそりと暮らしている。過去と距離を置きながら、漁港で働き、最低限の人間関係だけで生活している。ある日、視力を失った少年・幸太(尾上眞秀)と出会う。両親を亡くし叔母とその男と暮らす行き場のない幸太を三浦は自然と気にかける。三浦の影響は幸太の心を静かに満たしていき、二人の間には言葉を超えた絆が芽生えていく。
だが、三浦の過去は完全には消えない。組に残った弟分の大塚(ピエール瀧)、元弟分でいまは親分に成り上がった石崎(椎名桔平)、その腹心の八代(斉藤工)らのヤクザの世界は距離を置きながらも三浦を囲むように残る。港にいる荒川(笹野高史)や町の刑事(市村正親)も三浦を気にかけつつ見守り続けている。
三浦は幸太の視力回復手術をするためにある企てを考えて実行する。しかし、そこで犯した罪で12年間の刑務所勤めをせざるを得なくなった。出所するころには幸太は視力回復手術を経て成長し、刑事(眞栄田郷敦)としてヤクザの取締りに関与するようになっていた。
⒈木村大作
荒波の海の向こうに見える夕陽を捉える構図がいかにも木村大作によるカメラだ。北陸の冬の海と雪を捉える構図はどれも完璧で、自然光・風・陰影が画面の中で生き物のように動く。その構図が作品全体に独特の緊張と哀愁を与える。
木村大作がカメラと言えば、足を洗ったヤクザを高倉健が演じた「夜叉」が好きだ。田中裕子の好演も光る。特に高倉と田中が雪の中戯れる映像がいい。漁村を取り巻く風景が美しい。荒くれる波、大漁の旗を掲げている漁船、激しく降る雪と雪景色の海岸に潮のにおいがする素敵な映画だった。その雰囲気を心の中で甦らせる。

映画を見て、藤井道人監督がこういう映画を作りたかったんだろうなとつくづく思った。ましてや86歳の木村大作を撮影で起用できる事は奇跡的で今しか撮れない映画だと言って良いのではないか。舘ひろしとは「ヤクザと家族 The Family」でも組んでいる。あの映画は衰退したヤクザを描く映画であった。この映画の方が男の沈黙と絆を感じさせるハードボイルド作品だと感じる。北陸の冬景色の中で、豊富な脇役陣とともに撮りたかった映画ができた実感が、藤井道人監督にあるだろう。
舘ひろし演じる三浦は港で働き、無駄な言葉を口にせずひっそり生きている。その背中ですべてを語る姿が往年の高倉健を思わせる、孤独と気品が同居した佇まいだ。木村大作が到達した海を捉える映像の境地と、舘ひろし演じる古き良き男の気配が融合したすばらしい映画になった。

⒊豊富な脇役
椎名桔平の組長役が現在のヤクザの組長っぽくてよかった。「アウトレイジ」でヤクザの役柄を演じた時は、まだ2枚目路線の延長であったが、ここに来て、二の線じゃない役がうまい。ヤクザ映画「罪と悪」では椎名桔平は悪と通じている菅原文太が「県警対組織暴力」で演じたような警察官を演じた。ここ数年、悪役がうまい七変化ができるいい感じの役者になったと思う。斎藤工は割とチャライ役をやることも多いが,今回はいかにも現代ならず者の風貌だ。かなり荒くれ者の役をうまくこなした。
ピエール瀧はヤクザ役が多い俳優だが,今回は比較的おとなしい。むしろ椎名桔平や斉藤工の方があくどい役に見えるように抑えている。警察を演じても、ヤクザを演じても悪の顔になる。主人公が運転代行で働くシーンに登場する岡田准一は完全なサプライズで、贅沢な脇役の使い方に思わず息を呑む。

⒋眞栄田郷敦と尾上眞秀
荒々しさや反発心を抱えた若者を多く演じてきた眞栄田郷敦が、初めて責任を背負う大人として立つ姿も見どころの一つである。少年期の恩人である三浦と再び向き合う最後に向けて降り続く雪の中のシーンは美しい。TV「あんぱん」で、手塚治虫の役を演じたが徐々に上手くなっている気がする。
子役の尾上眞秀は寺島しのぶの息子。歌舞伎役者を志しているが,曽祖父にあたる俊藤浩滋氏は元東映の敏腕プロデューサーだったし、東映ヤクザ映画でデビューできたのは、彼にとっては記念すべき第一歩になるに違いない。実は彼の祖母の富司純子さんのお兄さんのお店で、先週お酒を自分は飲んでいた。だからどうしても気になってしまう。
